広義の有事法制充実の必要性

(2003年1月作成 : 2005年4月一部追補)    宝 珠 山    昇   

1 新しい脅威の特徴

 21世紀の新しい脅威の特徴は、5W1Hが判別しにくい、何時、何処で、誰が、何故、何を、どうするか判定しがたいことではないか。それは、また、@奇襲性・突発性の増大、A大量無差別破壊殺傷性の増大、B伝染性・潜伏性の増大、C先進国のシステムの脆弱化を利用、D伝統的抑止が機能しにくい、の五点に要約できよう。近年のテロはこれらを証明するものであった。

 これは、伝統的な戦略・戦術の根本的転換、例えば予防ないし先制攻撃の正当化など、を迫り、また、一国だけでは対応できないため、国際協力、特に先進諸国の連邦的協力を、国内では官民の緊密な協力を、ますます重要にしつつあると考えられる。
 国際社会が秩序を保ち、安定していることによる利益を大きく享受しているわが国は、そのコストを応分に負担し、行動することができる体制を整備することが期待されている。
 わが国の安全保障体制を、原点に立ち返って見直し、ならず者の恫喝に会っても屈しない物理的にも精神的にも強靭な防衛体制を構築することが必要となっていると考える。

2 広義の有事法制関連の現行の主要法律、条約

 わが国は、広義の有事法制として、次のような法律、条約を現在持っており、または持とうとしているので、形の上ではひととおり整備しているといえる。

3 広義の有事法制に残されている課題

 しかし、これらの法制を、国際水準と比較するとき、不備を抱えている、十分に機能しないものがある。それぞれの法制について指摘されている不備の要点は下の表の右側に記述したものである。

 これらを早期に国際標準にまで高めるために必要な共通の基本的改正点は、次の二つの「規制緩和」である。

 一つは、発令ないし出動要件、例えば「PKO参加5条件」を、国際標準あるいは国際社会の現実にあわせて緩和すること。今のままでは、アフガニスタンの治安回復を支援する多国籍軍や対テロ行動への協力や参加の可否を、主体的・戦略的に検討することさえできない。

 もう一つは、危険と隣り合わせに任務にあたる現場の隊員が武器を使用できる場合の規制を国際標準にまで緩和すること。これは、現場に適時・的確・柔軟な対応権限を付与することを含む。これによって、領域警備能力も強化され、国際協力活動では列国並みの任務を分担でき、隊員の安全も確保されるものとなる。

 あわせて重要なことは、法律があるだけでは現実の役には立たないので、それらの法制に基づいて、関係者、初期対応者などが、色々な事態に備えて、迅速に決断し行動できるように訓練しておかなければならないということ。発令や出動が時機を失すれば“後の祭り”になる。

 上記の二つの規制のなかには“憲法に違反する恐れがある”などの理由によるものがある。これを、新しい脅威の確認により国際社会の秩序維持活動などの形態が変化していることなどを踏まえ、緩和することが求められていると考える。
 例えば、国際犯罪の捜査・検挙行動は「日本国憲法第9条第1項にいう「国際紛争を解決する手段」には当らないと考えることにするだけで、発令要件や武器使用の国際標準化は進み、国際貢献度は大幅に向上する。
 将来的には、憲法解釈を変更あるいは憲法を改正し、集団的自衛権の行使に関する規制を撤廃ないし緩和し、これを主体的・戦略的に行使できる体制への進化が必要と考える。

4 「国民保護法」成立後の課題 (2003年12月17日(法案要綱発表時)追加)

 「国民保護法等有事関連七法案」(平成16年3月9日閣議決定、国会提出した法律案をいう)が、成立した後の課題については、上述の「二つの規制緩和」のほか、これにより完成した広義の有事法制の大きな枠組みの内容を充実し、現実の発生に際して現場が有効に機能するようにすることである。
 これらは、政令、省令、条例、規則、通達などの制定作業の中で衆知を集め、具体化されるものであるが、例示的に言えば、次のような性格のものと考えている。訓練を行い、その成果をフィードバックすることによって、脅威の発生態様の進化・変化に応じて、不断の改革・改善が必要なものである。

5 「国民保護法」